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2016.11.24
特集:認知症と向き合う 恐れすぎず無理もせず。
高齢化社会の中で、認知症は深刻な問題になっています。誰も「認知症になりたくない」と考え、脳トレーニングなどが注目を集めています。厚生労働省の予測でも、今後認知症高齢者は大幅に増加するとされています。認知症を正しく知り、対処法を考えていくことが、むやみに不安にならず前向きに生活していくために大切になっています。
何を食べたかを忘れるのは物忘れ、食べたこと自体を忘れるのが認知症
脳も体と同じように、加齢によって少しずつ老化していきます。日常生活の中のさまざまな要因も加わって、脳の神経細胞はだんだん減少していきます。記憶力が落ちたり物忘れがひどくなると、「認知症ではないか」と不安を感じたりしますが、老化で認知症になるわけではありません。昨日の夕食で食べた物を忘れる、その人の顔は分かるが名前が出てこないなどは、老化による物忘れです。これに対して、夕食を食べたこと自体を忘れてしまうのが認知症です。
認知症になると記憶力や思考力、判断力などが低下するだけでなく、時間や場所、人物などを認識する「見当識」という能力も低下していきます。日付や季節が分からない、家の中でトイレの場所が分からなくなる、家族に向かって「どちらさまですか?」と聞いたりするなどはこのためです。さらに進行すると抑うつ、徘徊、幻覚、妄想、暴力行為など、さまざまな症状が現れます。
老化による物忘れは、こうした行動面での症状が伴うことはなく、きわめて徐々にしか進行しません。認知症は通常の老化による減少より早く脳の神経細胞が消失してしまう病気です。原因となる疾患は数多いのですが、代表的なのは、何らかの原因で脳の神経細胞に変化が起こり萎縮してしまうアルツハイマー病によるものと、脳梗塞などで脳の血行が妨げられ、その部分の脳の働きが悪くなってしまう脳血管障害によるものの二つです。
とは言え、認知症の初期の物忘れと老化による物忘れは区別がつきにくい面があります。いつもと違うなと感じたら、早めに受診しましょう。また、認知症の人は自分が病気であるという認識が乏しく、家族など身近な人がおかしいと感じて専門機関を受診する場合が多いようです。最近では、この段階で治療することが、症状の進行を抑制する可能性を大きくすると考えられるようになっています。
認知症は現在の医療で治すことはできない病気です。早期診断は、適切な対処を早くから行うために大変重要です。アルツハイマー病の症状進行を抑制する働きをもつ薬剤も、症状が軽い段階から投与するほど効果が期待できるのです。また脳梗塞をきっかけに発症した認知症は、発作をくり返すたびに悪化します。そこで、認知症と判断されたら、脳梗塞の危険因子を取り除き、悪化を予防する手だてをとることになります。さらに公的サービスも含めた介護を早めに受けることもできます。
「認知症」と「物忘れ」の違い
老化による物忘れ * 体験の一部分を忘れる |
認知症の物忘れ * 体験の全体を忘れる |
健康的な生活を心がけ、年だからと片付けず積極的に受診しましょう


認知症の発症を防ぎ、症状を進行させないためには、生活習慣を見直すことが大切です。規則正しい生活、適度な運動とバランスのとれた食事を基本に、生活習慣病の予防、治療を行ない、健康な体を保つこと。ストレスを避け、好奇心や笑いの多い生活を心がけましょう。笑うと脳が活性化し栄養素や血液の補給がさかんになり、脳細胞が活発に働くので、笑いは認知症予防に効果があると言われます。友人や趣味の仲間など、人とのつきあいを大切にし、交流を楽しむようにすれば、外出の機会も増え、刺激も多くなります。年とともに減少する脳の神経細胞も、最近では減る一方ではなく、使い方によって年齢に関わりなく増やすことができるという説が有力です。
思わぬ事故で寝たままの生活が続いたり、入れ歯のトラブルなどが原因で、認知症を発症することもあります。健康な生活をおくるためにも注意したいところです。
増加傾向にあると言われているアルツハイマー病の原因は、残念ながらはっきりとは分かっておらず、脳梗塞などの脳血管障害でもすべての人が認知症になるわけではありません。やはり、家族など周囲の人が早く気づいてあげることが重要になります。同じことを何回も言ったり聞いたりする、慣れた道で迷子になってしまう、置き忘れやしまい忘れが目立つようになったなど気になることがあったら、「年だから」と片付けてしまわず、早く対処しましょう。受診先は、神経科や精神科、神経内科、老人科などですが、最近では「物忘れ外来」を開設している病院も増えています。
検査の内容は問診だけではなく、家族からの聞きとり、診察、テスト式認知機能検査の他にCT、MRIなどの画像診断が欠かせません。一見して認知症のようでも、脳腫瘍など、治療できる疾患があるかもしれないからです。設備やスタッフのそろった病院を選ぶのも大切なポイントです。また本人は病気であると認識していない場合も多いので、受診することで不安にさせたり、気持ちを傷つけないよう配慮が必要です。
介護には完璧を求めず、患者と家族ともに生活しやすい方法を
認知症であると診断されたら、家族や介護にあたる人たちは、まず病気なのだという認識をもつことが重要です。同じことを何回も言ったり聞いたりしても、本人は忘れてしまうので、いつでも一回目なのです。そのように理解して、行動の背後にあるものをくみ取ってあげることです。無理に直そうとしたり怒るのは不安やストレスになり、悪化につながることもあります。
次に気をつけたいのは、自分で出来ることは可能な限り、自分でやってもらう、その時に患者にとって安心で心地よい環境を作るようにすることです。時間がかかっても出来たことをほめて、出来なくなった部分をサポートしてあげるようにすれば本人も自信になり、信頼感にもつながります。また、認知症の人を一人にしておくと刺激が少なくなり、物事への関心や意欲が薄れ、症状が進行してしまいます。積極的に関わりをもつようにしましょう。
同時に、介護を抱えこまない、完璧を求めないことも大切です。認知症と診断されたら、早めに介護保険の認定を受けておきましょう。家族や介護をする人が、がんばり過ぎて深刻な事態になる前に、ケアマネージャーなどプロに相談し、自分たちの家族にあった介護サービスを利用して負担を軽減し、ストレスをためないことが大切です。患者が生活しやすい方法を見つけるためにも、介護者の心身への負担が少ない方法を考えるのも大事なことです。ショートステイやデイサービス、訪問ヘルパーなども利用しましょう。上手な介護で適切な対処こそが、認知症の進行抑制の可能性を大きくし、患者の幸せにもつながり、家族など介護をする側の人の負担も少なくするのです。